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【連載】彼らの秘密基地~しかラボ活動日誌~①/「アイデア(愛着)が形に変わる」

2025年11月13日(木)

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改修中の建物 ここから生まれ変わる

渓流で窓枠を洗う

真剣に木材を削る

 子どもの頃、秘密基地に憧れた人は少なくないはずだ。それは押し入れの中や自然の洞窟、あるいは木の上など、自分や仲間にとっての特別な空間。今、佐賀大学理工学部の建築サークル「しかラボ」が取り組んでいるのはそんな居場所づくり。鹿島市中木庭ダムのほとりにある鬱蒼(うっそう)とした林の中で、どこか心をくすぐる彼らの「秘密基地」制作を追う。

 10月30日、事前に教えてもらった位置情報を基に車を走らせ、国道中木庭ダムのほとりにたどり着いた。鬱蒼とした木に囲まれた林道を進むと、しかラボのメンバーが改修に挑んでいる築40年の古民家が見えてきた。

 この古民家は、もともと2007年に完成した中木庭ダム建設における水没予定地にあったが、後の利用を考えて移設されたもので、約27平方㍍の平屋の母屋に、約13平方㍍の離れが付随する。

 「しかラボ」のメンバーたちは、大学で学んだ知識を生かし、地元住民や建築士会など建設関連団体の協力を得ながら、設計から施工まで自分たちで手掛けている。

 この日到着した時には、リーダーの保澤伸光さんほか「しかラボ」のメンバーが、地元工務店の指導を受けながらすでに作業を開始していた。

 見せてもらった作業は、窓のサッシ清掃と補強に使用する木材の面取り。全体の作業工程で見ると、今月は腐った土台の交換など、構造の補強を行っているところだ。

 メンバーたちは、まだ使用できる窓を、いったん枠ごと取り外し、丁寧に磨き上げた後にポリバケツの水ですすぐ。敷地内には水道が通っていないため、作業は一苦労だ。それと並行して行っていた木材の面取り作業では、鉋のようなハンドサンダーという工具を使用していた。使い方の指導を受けながら、黙々と形を整えていく。これも職人技の継承の一つの形といえるかもしれない。

 そのまま作業を見守っていると、窓を洗うメンバーに動きが。敷地の下には渓流が流れており、どうやらそこに窓を運んで、直接洗うことにしたようだ。ついていくと意外に流れは緩く、夏場には水遊びを楽しめそうだ。

 しばらく作業を続けていたメンバーだが、そのうち向こう岸の大きな岩を的に見立て、河原の石を拾って競うように投げ始めた。童心に帰ったように、当たり外れに一喜一憂するその姿に、仲間と一緒に取り組む彼らの「今」がとても充実していることを察し、とても眩しく、そして羨ましく感じた。

 「自分たちのアイデアが形になっていくことがすごい」と話すのはメンバーの一人である石丸大貴さん。川の水で窓を洗っていた石丸さんは「最初に汚れていたものが、きれいになっていくことが気持ちいい。自分たちで設計した建物には愛着を感じるだろうし、完成した時の喜びを想像しただけで楽しい」とうれしそうに語ってくれた。

 彼らの作業はこれから床の張替えに入っていくという。本紙ではこれから完成予定の3月まで、彼らの活動を紹介していくつもりだ。彼らの「秘密基地」の完成を是非とも見守っていただきたい。


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