遠い山なみの光／カズオ・イシグロ

　主人公である悦子の娘景子の自殺から物語は描かれる。舞台は1980年代のイギリス。やがて50年代の長崎へと誘われる。景子を身籠っていた悦子は近所の佐知子と交際するようになる。態度が高飛車で、会話もまとまりを欠く佐知子は当然悦子とも噛み合わない。やがて男と共にアメリカへ行くと言い出す佐知子だったが……。

　舞台のほとんどが長崎で、登場人物も日本人である点からまるで日本語で書かれた小説を読んでいる感覚にとらわれた。佐知子は悦子の投影だったのかもしれない。戦後、時代の転換期の物語。全体が最後まで明かされず、読者に委ねられるところが大きい、不思議な話。原爆や戦争の影がつきまとい、カズオイシグロならではの仄暗い世界観が見事に創られている。

カズオ・イシグロ ／早川書房

1,342円（税込）

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