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海外に広がる日本の建設技術/㈱ワイビーエムがインドネシアで地盤改良の普及・実証事業

2019年08月08日(木)

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ワークショップには多数のインドネシア政府関係者らが参加した

現地に設営されたプレゼンテーション会場内の様子

地中に造成した支持杭(改良体)を間近で確認した

雑木林を切り開いて造った試験施行会場

 地盤の調査や改良に用いる特殊建設機械を開発製造販売している㈱ワイビーエム(唐津市、吉田力雄代表取締役社長)は、インドネシアで「『中層混合処理工法』による地盤改良効果の普及・実証事業」を実施している。同事業は2017年度に独立行政法人国際協力機構(JICA)の中小企業海外展開支援事業として採択されたもので、インドネシアの軟弱地盤地域におけるインフラの地盤沈下防止と地震被害の抑制に貢献するとともに、同工法の導入と施工機械の市場創出を目指す。事業期間は20年12月まで。同事業では㈱ワイビーエムを事業主として、補強に国立研究開発法人寒地土木研究所、外部人材にはカーボンフリーコンサルティング㈱、日特建設㈱、山田コンサルティンググループ㈱が参画している。


◎事業の背景とこれまでの取り組み


 事業の実施場所は、インドネシア国スマトラ島(リアウ州)。スマトラ島では最北端から最南端までを縦断する全長約2700㌔の高速道路開発計画が進行しているが、建設予定地には軟弱地盤が広く分布しており、地盤改良技術の不足などから工事遅延が不安視されている。
 そこで、従来の工法に比べて工期短縮が見込める『中層混合処理工法』を導入し、問題の解決を図る。同工法は軟弱地盤の地表から一定の深さまでの区間をセメントまたは石灰などの安定材と原地盤の土を混合し、柱体状または全面的に地盤改良する。インドネシア国内で施工事例のない新たな地盤改良工法であり、有用性を証明するためにことしの7月1日から同月16日にかけて、スマトラ島縦断高速道路建設予定地で日本から派遣した技術者と同社の施工機械(地盤改良機GI―80C―HT―KF、グラウトポンプSG―30SV)による試験施工を行った。
 試験施工は、同事業のカウンターパート(C/P、JICAの技術協力プロジェクトなどにおいて技術移転の対象となる相手国行政官や技術者)であるインドネシア国営建設企業PT.HUTAMA KARYA(フタマカリヤ)へ施工に必要な事前地質調査、セメント配合量の検証、施工方法、安全管理などの技術移転を行いながら実施した。同社はスマトラ縦断高速道路の開発事業者でもあり、ことしの3月には同社の技術者らが来日し、県内の有明海沿岸道路地盤改良工現場などを見学した。
 7月17日には、試験結果発表の場として現地でワークショップを開催。インドネシア政府とフタマカリヤからも多数が参加し、大いに盛り上がった。


◎試験施工を終えた今後の展開


 試験施工の結果を踏まえ、C/Pのインドネシア国公共事業省道路橋梁研究所と共同で効果の検証を行う。同研究所はインドネシアに新工法の技術基準を策定できる唯一の機関で、『中層混合処理工法』の技術基準書案の策定は今回の事業の成果の一つとなっている。
 そのほか、インドネシアの公共事業省や公共工事における工法選定を担う設計コンサルタント、土木業界関係者などを対象に、工法と施工機械の認知度向上を図るための普及活動を展開していく。


◎立ちはだかる『コスト』の壁


 特に、インドネシアなどの経済成長の途上にある国における日本技術の普及には、既存の技術に比べて投資や運用に掛かるコストの高さが問題となる。公共工事の分野でも「高品質よりも、低コストを優先する」という考えが、少なからず存在している。


「低コスト優先」の姿勢をとる国や企業を相手に、どのようにして海外進出を図っていくのか。㈱ワイビーエム海外営業部の市丸博巳部長と内山恒平氏に話を聞いた。
■市丸博巳部長
 「弊社の製品は国内基準で生産しており、原価は日本ベースとなっている。性能は良くてもコスト面での折り合いがつかないという理由で、難しい部分もある。それでも、市場を広げていくためには海外への進出が必要であり、日本の技術を見たいという海外企業からの要望も多い。実際に機械が動くところを見てもらい、使用実績を積み重ねていくことが営業の第一歩になる。国内はもとより、海外にも弊社の地盤改良製品を広めていきたい」
■内山恒平氏
 「今回、インドネシア政府およびフタマカリヤからの参加者が非常に多かったことから、試験施工に対する期待の高さがうかがえた。また、参加者の反応からも、技術の有用性は伝わったという手応えを感じた。コストダウンには限界があるが、こうしたデモンストレーションを通じて製品が持つ価値についての理解を深めてもらいたい」



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