再エネ『地中熱』に注目 /複数の自治体が導入検討、軟弱地盤に利用可能性
2019年01月01日(火)
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佐賀県内で、再生可能エネルギーの一つである「地中熱」が注目を集めている。
地表から深さ10㍍以降の地中温度は、季節や天候に左右されず温度が年間を通しほぼ一定。外気温との温度差が冷暖房に用いられ、国内では北日本を中心に普及している。県内でも、軟弱地盤が地中熱利用のための掘削を比較的容易にすることから、地中熱利用の可能性が見込まれている。
地中熱の普及に取り組む団体や大学関係者のほか、複数の自治体が公共施設への導入を検討している。県内での地中熱普及・利用に向けた動向を探った。
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未利用熱の普及へ、モデルルームで地中熱空調の実証
有明未利用熱利用促進研究会
(一社)有明未利用熱利用促進研究会は、地中熱をはじめとした未利用熱の普及に取り組んでいる。野田豊秋理事長は「地球温暖化が問題となっている今、低炭素社会を目指していく必要がある。未利用熱の活用を広め、省エネを推し進めたい」と研究会の活動目的を語る。
未利用熱は、地中熱、下水熱や工場排熱など、さらなる有効利用の可能性が見込まれる熱エネルギーの総称。研究会は、建設、設備会社を中心とした会員に加え、金融、NPO法人などの特別会員、大学教授の技術顧問など26者で構成される。2015年7月に前身の「九州地中熱利用促進研究会」が発足。その後、佐賀平野を中心に地中熱以外の熱エネルギーも利用することを目標とし、現在の名称に改めた。
研究会では、展示会への出展による普及活動、未利用熱利用システムの研究開発などに取り組んでいる。主な活動の一つが、地中熱利用空調システムを導入したモデルルームの運用。㈱バイオテックス、㈱坂田組、㈱ワイビーエムや野田建設㈱などが施工し、15年3月小城市にオープンした。モデルルームの建設当時を、内田良平副理事長は「地中熱の認知度が低く、実際に見学できるものがなければ個人や自治体へのアピールも難しい」と振り返り、地中熱活用の実証や周知を目的に、モデルルームの建設に取り掛かった。
モデルルームの施工は、他の住宅への地中熱利用空調システムの導入も見据え敢えて困難な状況で取り組んだが、問題なく完了。モデルルーム施工後には、個人宅のリフォームで地中熱利用空調システムを導入した。モデルルームでは自治体、企業や一般に向けた見学のほか、地中熱利用空調システムの実証事業も行ってきた。
地中熱のさらなる普及に向け、18年10月には「第8回全国地中熱利用促進地域交流2018佐賀」を二日間にわたり開催した。一日目は、全国および佐賀県内での地中熱利用の事例や中央省庁から関連事業や補助金などについて紹介。公共施設における地中熱利用というテーマで、パネルディスカッションも行われた。二日目は、地中熱の実証実験に取り組む佐賀大学の研究室やモデルルームを見学。全国から約240人が訪れた。野田理事長は「地中熱をより多くの人に広めたいという思いから、開催地として佐賀から名乗りを上げた。地中熱の普及に取り組む他の団体などに、佐賀でも地中熱に先進的かつ熱心に取り組んでいることがアピールできた」と充実した地域交流会であったことを語った。
地中熱の普及には掘削コストなどの初期費用が課題となる。導入への一助となるのが、国から交付される補助金。「自治体への導入であれば、補助金の交付率が高い。まずは自治体への導入をターゲットに設定し、民間が導入する際の参考事例になれば」と普及への見込みを野田理事長は指摘する。
研究会では、地中熱のほか下水熱などの未利用熱の普及・活用にも取り組む。野田理事長は「未利用熱の普及・活用を広めることで環境問題の解決につながり、また、建設業界の行き先も明るくなる。佐賀市も、二酸化炭素削減のためにバイオマス事業に取り組んでいる。佐賀の事業者として、我々も低炭素社会実現の力になりたい」と意気込みを語った。
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地中熱空調の最適運用を検証
佐賀大学・小島教授
(一社)有明未利用熱利用促進研究会と、地中熱利用空調システムの実証事業に取り組んだのが、佐賀大学理工学部の小島昌一教授。病院内での空調熱源システム運用についての研究が契機となり、実証事業で地中熱利用空調システムの最適運用を検討した。
モデルルームでは、熱源に地中熱、空調システムに放射冷暖房を採用。熱源に地中熱を利用するため、地中熱源ヒートポンプを設置し、敷地内に「ボアホール」と呼ばれる地上から30㍍の穴を6本掘っている。地中に埋め込んだ熱交換器に不凍液を循環させて、夏は放熱、冬は採熱を行う。地中熱は年間を通して一定のため、熱交換の効率性が高い。室内には、放射冷暖房パネルを設置。冷温水を循環させたパネルからの放射で、冷暖房を行う。
小島教授は、佐賀県医療センター好生館の竣工当時から2年間にわたり、院内の空調熱源システムの最適運用方法について研究。2015年に行われた再生可能エネルギーなどに関する講座で研究内容について講演したことがきっかけとなり、研究会から打診を受け、16年より実証事業を開始した。
実証事業は、①放射冷暖房によりもたらされる温熱環境、および快適性を実測に基づき把握・評価②最適運用へ向けての検討―を主な目的に実施。夏と冬にそれぞれ約1週間、人の出入りがない状況で冷暖房を24時間稼働し、温熱環境の調査を行った。放射冷暖房は空気の温度に直接作用せず、室内の物や人などに、遠赤外線で作用する。そのため温度の測定は、体感温度にも近いグローブ温度計を用いた。
実証事業の結果、現状の測定環境において、効率的な放射冷暖房の運用法を解明。小島教授は「空調側で最適な運用ができれば、熱源側をどのように運用すればいいかという検討に移れる。今後機会があれば、熱源側の検証の余地がある」と指摘する。
また測定に用いたグローブ温度計について、部屋の中央に設置した場合と冷暖房パネル近くに設置したもので、計測データに大幅なかい離は見られなかった。設置場所は部屋の中央が望ましいものの、設置の容易性から冷暖房パネル近くでも問題ないと結論づけた。
「熱源に地中熱、空調システムに放射冷暖房の組み合わせは、モデルルーム以外でも採用例が増えている」と語る小島教授。従来、空調システムの熱源には導入が容易で安価な空気熱が多く利用されてきた。しかし、大気中に排熱するため、都市部でのヒートアイランド現象などが問題となっている。一方地中熱は、大気中に悪影響を及ぼすことがないクリーンなエネルギーとして、利用例が増えている。
地中熱利用の展望について小島教授は「地中熱導入の課題となるイニシャルコストをいかに下げられるか。比較的掘削がしやすい佐賀などで事例を積み上げ、新たな掘削方法、採熱方法を探っていくことができるのでは」と事例増加と技術進歩の重要性を説いた。
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拡がる自治体での活用
神埼市新庁舎に導入 県ではポテンシャルマップ作成
県内の自治体でも、神埼市をはじめ公共施設に地中熱を導入、または検討する事例が複数ある。また、県では導入を促進するポテンシャルマップの作成を行っている。
神埼市では、2020年度に完成予定の新庁舎に、地中熱利用空調システムを導入する。市によれば、佐賀県内の20市町の庁舎で、地中熱を導入するのは初となる。
市は、広い設置スペースを要しない垂直型のヒートポンプシステムを採用。事業は17年度から3年計画で進めている。18年7月に国の補助対象になり、9月補正予算で補助金699万8000円を充当していた財源と組み替えた。1月より熱応答試験を予定。市庁舎整備課では、電気量と二酸化炭素の25%削減を目標に掲げている。19年度に本工事を実施、20年度5月より地中熱利用空調システムの運用開始を目指す。
(特非)地中熱利用促進協会によれば、地中熱を導入している庁舎は15年度末時点で広島県三次市などの34カ所に上る。
佐賀市でも、20年度の開館を予定している東よか干潟の拠点施設に、地中熱利用空調システム導入を検討している。干潟周辺の地盤が軟弱なため掘削が容易であり、導入が見込める。現在、現地での調査を終えており、データをもとに導入時の効果などを検証している。拠点施設には干潟を観察できる展望棟のほか、会議室、資料室や物販用のスペースを設ける。
県の新エネルギー産業課では、地中熱利用に向けたポテンシャルマップを作成している。年度内に完成させ、事業者が地中熱導入に向けた提案時のツールなどに利用する。マップでは佐賀平野を主な対象地域とし、地中熱を導入する建物規模に合った熱需要を想定している。
昨年10月の地域交流会で山口祥義知事も「佐賀は地盤が軟弱で、地中熱を利用しやすいと聞いている。原発への依存度を減らしていく必要があり、非常に関心が高い」と地中熱普及に前向きな姿勢を示している。