基幹道路は命の道、インフラ整備に注力 /伊万里市 深浦弘信市長に聞く
2019年01月01日(火)
特集記事
人物
1979年の入庁以来、30年以上伊万里市役所で市政に携わってきた深浦弘信氏。2018年4月に市長に就任。「次世代の育成が行政の大きな責務」と語る深浦新市長に伊万里市への思いと今後の展望を聞いた。
市長を志した理由を教えてください。
かねてから伊万里市を変えていきたいという思いがありました。長らく市役所で働いてきましたが、終盤では停滞感のようなものを覚えていました。その理由の大きな一つが子どもたちのことです。
伊万里市では毎年500人前後の児童が小学校を卒業しますが、一割がよその市町の中学校に進学していて、それを残念に感じていました。
市長選の公約に小中学校のエアコン設置を挙げられていましたが、そうした思いが関係しているのでしょうか?
はい。学校教育そのものは教師の方々が担う部分ですが「学校の環境整備は市の責任ではないか?」と改めて見てみると、学校環境がまだ十分に整っていないことに気づきます。
分かりやすい例がエアコンですね。伊万里市は県内でも小中学校のエアコン設置率が低い。この状況を改善するには、全体を見て予算の使い方を見直せばいいのではないかと。それができるのが市長だと思い至りました。
これから市内小中学校全ての普通教室に空調を設置するように事業を進めていきます。近年の猛暑で国も動き始めました。公約では4年以内を目標にしていましたが、国の補助金制度も活用して早急に実現させるつもりです。(※1)
産業振興をしっかり行うのは大前提として、その上できちんと子どもに目を向ける。次の世代を育てることが行政の大きな責任だと思っています。
(※1)2018年12月補正予算で小中学校213教室の空調設置費・約5億3500万円、デジタル教科書の導入費・約650万円が計上されている。
歴代市長から継承したい事柄と、新たに挑戦したい事柄を教えてください。
いま自治体が関わっている事柄は国際交流、就職支援に婚活応援と多岐に渡っています。現在のさまざまな行事や行政システムは必要だから実施されているもので、それを止めてしまうことはできません。また、新たに大きな財源を確保することも難しい状況です。そうしたなかでは、漏れなく確実に引き継いでいくことが大事だと考えています。
挑戦する事柄を挙げるとすれば、やはり保育園から中学校までの環境を良くしていきたい。デジタル教科書も導入していません。自分が市長になったからには、そういった部分を前進させたいと考えています。
職員時代から市の情報誌の創刊やケーブルテレビの設立にも関わってこられました。
市政とメディア・情報についてどのようにお考えでしょうか?
メディアや情報というものは、単独では存在できません。たとえば焼き物を作る会社には焼き物という手にとれる実体があり、それを商うことで伸びていきます。そういう実体を支えてフォローしていくのが情報、メディアの役割だと思っています。
メディアといっても今はスマートフォンから紙媒体まで多様化しています。
伊万里市でも市民への情報提供や呼びかけの手段として、市報、ケーブルテレビ、ネット動画、SNSなどさまざま方法を用いますが、そうした手段を持っているというだけでは駄目で、目的や速報性に応じた最適な手段を選ぶことが重要。そこが情報部門での経験の生かし所ですね。情報が一人歩きするようなまちにはしないつもりです。
伊万里市の再生可能エネルギービジョンについて教えてください。
原子力や、いずれ枯渇する資源だけに頼らないまちづくりに行政として取り組んでいます。
2018年から10年計画で再生可能エネルギー使用を促進する目的で風力発電や小水力発電施設の設置、バイオマスプロジェクトを進行中です。2028年に市内の電力の10%以上を再生可能エネルギーで賄うことを目標にしています。
伊万里市は風力発電向きの風況に恵まれていますので、それを生かしていきたいですね。
近年は自然災害が頻発しています。伊万里市は山間部が多く、防災と災害時の対応はとても重要な課題です。
それについて考えを聞かせください。
昭和42年に伊万里で大水害が発生しています(※2)。市街地の建物の多くが床上浸水し、十名以上の死者を出した大きな災害でした。それ以降、伊万里川の川幅も倍になりました。また、都川内ダムや井手口川ダムをつくるなど、先人たちのおかげで市は災害に強くなりました。それでも夏の豪雨では山間部の林道や市道、市街地の一部家屋でも損壊が発生し、8月までに11億円を超える被害が発生しています。
そうした現状から実感したことが二点あります。一点目は、まだまだインフラの整備が必要だということ。二点目は国道204号線について。
福岡から伊万里につながる道路といえば、国道202号線と西九州道路を連想される方が多いでしょうが、相次ぐ災害で202号線は一時不通になり、西九州自動車道も通れなくなりました。ですが唐津とつながる国道204号線で物流を維持することができました。この道は万が一の際に唐津からの避難路としても役立つ道なので、こちらの整備もしっかりと進めていかなくてはならないなと考えています。
また災害時は情報の伝達手段、食料の備蓄とそれをどう避難者に届けるかといった課題もあります。常日頃から備えるとともに、手法をより良いものに更新していくことを心がけたいです。
どこまでインフラを強化すればいいのか、その線引きはなかなか難しい課題です。国や県と連携して取り組んでいかなくてはなりません。
(※2)1967年7月に近畿から九州北部にかけて発生した豪雨による水害。伊万里市では9日の12時から14時までの2時間で144㍉という降雨量を記録した。死者12人・重軽傷者435人・住居の全半壊182戸など家屋関係のり災者は2万800人。農産物や農地、インフラの被害は当時の額で120億円にのぼった。伊万里市は7月9日を「市民防災の日」と定め、毎年7月上旬に市役所市民ロビーで当時の写真や防災用具の展示を行っている。
整備が進んでいるセラミックロード(伊万里有田線)の基幹道路としての役割を教えてください。
伊万里有田共立病院につながる道はまだ202号線のみです。非常時のR回路としてセラミックロードは大変重要な役割を担っていますし、伊万里―有田間の観光と物流の活性化にも期待しています。
基幹道路は災害や事故発生時には「命の道」となりますので、整備には今後とも力を注いでいきます。
こうした道路を含めたインフラ整備には建設業界の皆さまの協力は不可欠ですし、災害復旧にも力を貸していただかなくてはなりませんので、今後とも力を合わせていきたいと考えています。
今後のまちづくりの指針について教えてください。
一番の課題は人口減少への対応です。伊万里市ができた当時は8万1000人でしたが、今は5万5000人。この現実を直視して「どういう形で市を運営していくのか」「どういうまちをつくっていきたいのか」、そういう指針をまとめて、2019年3月の議会で上程する予定です。
今後の公共施設の建物やインフラは長寿命化していかなくてはなりません。適切なファシリティマネジメントの必要性を感じています。長いスパンで市政を考えている姿勢を、市民の皆さんに示したい。そして皆で同じ方向を向いて進んでいきたいと願い、日々努めています。