新幹線駅周辺に新たなまちづくり /嬉野市 村上大祐市長に聞く
2019年01月01日(火)
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選挙戦を経て昨年の2月に、嬉野市長に就任した村上大祐氏。新幹線駅周辺の整備、医療センター跡地活用や企業誘致ビルなどのかじ取りを担っていく村上市長に、町づくりの構想について話を聞いた。
市長職を目指した理由
2017年9月に佐賀新聞社を退社して、市長選への出馬を表明した。記者として嬉野市を取材していくなかで、歴史があり、お茶、陶磁器や温泉など魅力的な地域資源が多くあると感じた。市の魅力に惚れ込んで市内に在住するようになり、佐賀市の本社勤務時にも、また市長となった現在もこの町を愛し住み続けている。
記者時代に市の「嬉野市まち・ひと・しごと創生総合戦略」の策定に民間委員として参加し、企業誘致ビルの建設などの提言を行った。さらに一歩進んだ立場で、市民の皆さんが抱く理想の町を形にしたい。また、記者として培った経験を市に還元できないか。そのような思いから、市長職への立候補を決めた。
町づくりの計画について
今後の町づくりに関しては、嬉野市第2次総合計画をもとに進めていく。計画にはスローガンとして「MAKE TOGETHER 一緒につくろう」と掲げた。従来型の利益分配のみを考える政治では、衝突やいがみ合いが発生するかもしれない。市民としての誇りの創出や地域資源の魅力発信など、新しい価値を生み出すことが行政にとって重要だ。例えば、市内の若者が中心となってお茶や温泉の魅力をPRする「嬉野茶時」というプロジェクトに取り組んでいる。そのような動きを推進するのも、行政の役割。行政と市民が協働し、魅力ある町づくりを行いたい。
地区集会の開催などによる市民との対話、医療センターの跡地活用などを市長選の公約に掲げていた。
1年余りの市政をどう振り返るか
各地区に出向き広く市民の考えを聞くことで、行政に求められていることを導き出す。そのために行政区ごとの聞き取り、対話を行ってきた。行政が長らく見落としていたものも見えてき、今後の課題として取り組んでいく。
医療センター跡地については、市民の関心も高い。市長選でも私だけが言及しており、市民からの期待と責任の両方を感じている。18年10月に市長直属のプロジェクトチームを立ち上げた。直轄事業として取り組む姿勢を内外に示し、短期間で集中し質の高いものを完成させたい。整備方針としては、町のイメージである健康や癒し、また観光地との親和性の高いものを検討している。新幹線の開業も控えているのでスピード感を持って取り組み、まずは施設整備の大枠を示したい。
元新聞記者として、広報のプロフェッショナルとしての役割も期待されていると考えている。4月に機構改革を行い、広報・広聴体制の強化を図りシティプロモーションへ注力する。
22年度には、九州新幹線長崎ルートの開業を控えている。嬉野温泉駅(仮称)周辺の町づくりの方針は
新幹線の開業により、既存の駅の活用ではなく新駅の建設が伴う。新駅含め周辺に新たな町並みをつくる、100年に一度の大事業と捉えている。100年後の評価にも耐えうるよう、いいものをつくっていきたいという気負いがある。
駅周辺に統一されたコンセプトがないと、軽薄なものになってしまう。町がこれまで紡いできた歴史・伝統を大事にし、健康や癒しなどのイメージに合致させたい。駅舎のデザイン自体も和風旅館をモチーフにしたものを採用した。市の魅力が凝縮され、玄関口としての役目を果たせるような駅、駅周辺を目指したい。
新駅のそばに移転してくる医療センターとの連携も図っていく必要がある。健康講座の開催など、ソフト面にも力を入れる。
観光に関しては、これまではマイカーで来る人が多かった。新幹線開通後は、鉄道で来て現地での交通手段を持たない人が多くなると想定される。駅で荷物を預かり宿泊先まで配送するサービスやレンタサイクルなどを充実させたい。実用化に時間は要するが、将来的には自動運転の活用も見据えている。また新駅はハウステンボスにも近く、西九州観光のハブとなりうる。既存の駅活用と異なり、広いバスターミナルを設けて各地への直通バスの運行も検討できる。
新駅周辺には企業誘致ビルの整備も計画されている。企業誘致ビルを含め、市内での雇用創出についてどのように考えているか
企業誘致ビルには、ペットの保険を手掛ける会社の進出が既に決まり、地元から80人の新規雇用を見込んでいる。ICT関連を始め多様な業種、または総務などのバックオフィスの誘致も推し進めていきたい。
市内から若者が減っていくなか、雇用をつくることが対策の一つになる。大きな工場だけではなく小規模の事業所の誘致も検討し、合わせて地元企業が雇用を増やせるよう行政として働きかけていきたい。多様な働き方を確保することで、多様な人材を市内につなぎとめる、または呼び込めると期待している。
18年10月には嬉野温泉本通りの市道を一方通行化する社会実験が実施された。
交通の安全面、にぎわいづくりなどに関し温泉街・商店街の課題とその対策について
ここ最近、外国人を含め観光客が急増してきた。町歩き型の観光が増えるなかで、長時間の違法駐車やスピード違反も時折見られる。安全面、商店街への誘客などに関して、歩道を広げた効果を検証することを目的に、一方通行化の社会実験を行った。
社会実験には、商店街からは反対の声も多かった。進め方が拙速だという意見もあり、真摯に受け止めなければならない。
一方で、大型ディスカウントショップの出店計画もあり、商店街の空洞化を危惧している。検証のための社会実験は早急に行い、その後の施策に関してはしっかりと合意を得ながら進めていきたいと考えている。賛否両方の意見を受け止め、行政として責任を持って町づくりの方向性を示したい。
新駅から商店街への誘導には、自動運転も含めた交通手段の整備、確保が重要になる。新駅と商店街一体となったグランドデザインを考えていく。商店街の意見も伺い、協力しながら取り組んでいきたい。
近年は災害が頻発し、公共施設には防災拠点の役割も求められている。市庁舎の災害への備えはどの程度進んでいるか
昨年は豪雨や地震、台風などが頻発し、日本には災害がつきものということを市民も感じたと思う。塩田庁舎付近も、昨年7月の豪雨では孤立寸前まで水位が上がった。嬉野庁舎も築50年を超えていて、防災・減災の拠点として見直す時期に来ている。対応として、庁舎の老朽化に対する検討委員会を立ち上げている。市民も交えた議論を進めていきたい。
地元建設業への提言
公共施設整備に関しては、民間資本を取り入れるPFIを軸に考えている。単なる整備に留まらず、どのような付加価値を生み出せるか。業者にとっては提案力が問われる。地元の企業がより力をつけるためにも、他の企業と特定会社を設立することでノウハウを共有し、自社の成長につなげてほしい。
市内には老朽化した施設が多い。維持管理含めトータルコストを抑えるためにも、地場企業のパワーアップが必要。ひいては、雇用増大にもつながる。
市内でも、建設業協会への加盟社が減っている。防災の面からも、地場の建設業はこれ以上減らす訳にはいかない。各社の自助努力のみに頼るのではなく、行政も力を合わせていきたい。
19年は村上市政2年目を迎える。本年の市政にかける意気込みは
市民と共につくっていく町づくりを加速していく。一年目は地ならしとして現状把握を含め多方面から話を聞いたが、引き続き市民との対話を重視したい。
将来を見据えた町の構想を打ちだし、市民と共にさらに推し進めていく。