国土交通省 森昌文事務次官に聞く /『生産性向上』さらなる高みへ /「国土強靭化」3カ年で集中的に推進
2019年01月01日(火)
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平成が最後の年を迎えた。好景気に沸いたバブル期に平成の時代は幕を開け、その後の長い景気低迷を経て、今の日本が直面しているのが高齢化と人口減少だ。経営を持続するため、各企業には不足する働き手を補う生産性向上という課題が突きつけられている。建設現場でも新技術を活用し、生産性を高めることが目下の課題で、建設現場の生産性向上を目指すi-Constructionがスタートし、今年で丸3年になる。国土交通省の森昌文事務次官は「データ化と3次元データの活用により、建設現場の生産性向上への取り組みはこれから大きく花開くはずだ」と期待感を示す。森事務次官に平成の30年間を振り返ってもらうとともに、次の時代の展望を聞いた。
―2018年を振り返ると、国民全体が災害を強く意識する1年になりました。
「昨夏には、予想を超える地震、水害が立て続けに発生した。河川の氾濫は局所的な被害にとどまらず、広範囲に被害をもたらし、多くの人命が失われた。鉄道、道路、空港など陸海空のあらゆる交通手段が被害を受け、国民生活からインバウンドに至るまで大きな影響を及ぼした」
「これらの被害を教訓に政府全体で重要インフラの緊急点検を行い、点検結果を踏まえた『国土強靱(きょうじん)化、防災・減災のための緊急対策』がまとまった。今年は、18年度第2次補正予算案と19年度当初予算案、当初予算案に盛り込まれた『臨時・特別の措置』の3本柱で、全国的な再度災害の防止、改良復旧に着手することになる」
「建設産業行政の分野で言えば、外国人材の受け入れ拡大が一つの焦点になった。建設現場全体の生産性を高めた上で、それでも不足する部分にどのように人材を供給するか。一連の議論を通じ、担い手確保のメニューに外国人労働者が加わったということだろう」
―2019年は平成最後の年になります。平成の30年間で建設生産の現場はどのように変わってきたのでしょうか。
「私自身は、旧建設省の出張所でインフラのメンテナンス、工事監督、積算などを経験できた『最後の世代』。当時は出張所にもまだまだ若い人材がいて、そうした経験を積むことができた。ある面では『恵まれた世代』とも言える」
「われわれが経験できたことが、今の職員は経験できなくなっている。積算の仕組みは格段に効率化されたが、そのことは技術革新をもたらす土俵やひらめきを自ら省略することになったと強く感じている。現場で自らの経験を改善につなげることが難しくなっており、私自身は心配している」
―この30年の技術の変化をどのように捉えていますか。
「生産性はこの30年で確実にレベルアップしている。例えばトンネルの掘削技術では、私の入省当時は、支保工を使ったいわゆる『在来工法』を採用することがほとんどだった。1986年にNATM工法が標準工法に位置付けられ、シールド工法とともに生産性を飛躍的に向上させた。トンネル掘削の生産性はこの50年で10倍に伸びたとも言われている」
「シールド工法やNATM工法に飛躍的な技術の進展が見られた一方、コンクリート工や橋梁工事には生産性をアップさせる余地が依然としてある。その他にも、日本型の〝ガラパゴス〟的に進歩の見られない分野もある。生産性向上へと大きく花を開かせるべき分野は残されている」
―国交省がi―Constructionを打ち出して丸3年。今後の展開は
「i-Constructionが目指しているのは、注文生産でインフラを造りあげる建設現場を〝工場化〟すること。そのためにデータ化やICT施工といったさまざまなトライアルを進めており、今のトライアルの裾野を広げることが今後も求められる」
「建設分野に関わりのなかった企業が持つ新技術をどのように定着させるかが重要。今までの延長線上にない新しい仕組みづくりにチャレンジしていきたい」
―昨年は免震・制振ダンパーの検査データ改ざんが発覚しました。ここ数年、類似の不正行為が続いています。
「今回の不正は、国民の技術者に対する信頼を損なう行為。まずは不正を働いたメーカーが再発防止に取り組まなくてはならないが、各現場で働く技術者が自らの矜持(きょうじ)を見つめ直してほしい、というのが個人的な思いだ」
―こうした不正行為に対して規制を強めれば、新技術の現場実装を阻害することも懸念されます。
「例えば全数監視などで規制を強化すれば、受発注者双方の負担を重くし、お互いが負のスパイラルに陥ってしまう。新技術の社会実装を早める環境を整えたい、というわれわれの思いと逆行する結果を招きかねない。われわれが進めようとしている施策の方向性とは異なると思っている」
―4月からは時間外労働に罰則付きの上限規制が適用されます。5年の猶予期間がある建設業の働き方改革をどのように支援していきますか。
「働き方改革で職場環境を改善し、建設業の担い手を確保しなくてはならない。週休2日、施工時期の平準化、適正な工期設定などの取り組みを積極的に進め、現場に定着させることが重要だ。5年の猶予期間をできる限り前倒しし、1年でも2年でも早く改善が進むようにサポートしていきたい」