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全国建設青年会議第24回全国大会パネルディスカッション

担い手確保は全産業がライバル/働きたい・辞めない地域の担い手へ

2020年01月01日(水)

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人物

昨年12月に東京で開かれた全国建設青年会議全国大会

パネリスト(左から髙野氏、東川氏、田中氏)

パネリスト紹介

 担い手不足が叫ばれて久しい建設業。これまでも現場見学会などに取り組んできたが、担い手の確保競争が全産業間で進む中、建設業として将来を担う世代に向けた新たな展開が求められている。昨年末の全国建設青年会議第24回全国大会で『働きたい建設業をつくる』をテーマに行われたパネルディスカッションに、そのヒントがあった。二人の博士(工学)がボランティアで活動する〝噂の土木応援チーム・デミーとマツ〟がコーディネーターとなり、国土交通省幹部と地域建設業者の代表、広報の専門家が意見を交わした内容を紹介する。


全国建設青年会議第24回全国大会パネルディスカッション
【パネリスト】
▽先端教育機構事業構想大学院大学学長 田中里沙氏

▽国土交通省大臣官房技術審議官 東川直正氏

▽熊本県建設業協会青年部会長 髙野大介氏

【コーディネーター】
▽噂の土木応援チーム・デミーとマツ(2018年土木学会土木
広報大賞優秀賞、19年土木学会土木広報大賞準優秀賞)








■国のリーダーシップで長期見通しを



マツ 国民の生活基盤である社会インフラの維持・更新や頻発する災害対応を担う建設業の現状を教えてほしい


髙野 「熊本では人手不足が深刻で、工事を受注するチームがつくれずに不落になる入札が3~4割ある。若手をどう確保し、育てていくかが大きな課題だ」


東川 「直轄の不落はそこまでないが、災害発生エリアで不落・不調が多いのは事実。地元調整や現場条件などで〝儲からない工事〟に対する予定価格や工期の適正な設定などを進めている。ただ、市町村では、技術者不足で適正な工期や積算ができないケースもあると聞いている。工期設定支援システムの公開をはじめ、発注者協議会の場などで国の取り組みを情報提供し、予定価格・工期の適正化に繋げていく」


髙野 「若い人材の確保の観点から見ると、子どもの就職時に親が気にするのは『休暇』と『給料』。ただ、今の労務単価では不十分で、休みを増やしたり、給料を上げるのは難しいのが実態だ」


東川 「公共工事設計労務単価は7年連続で増えている。週休二日のモデル工事も進め、工事費の割増や総合評価での加点に取り組んでいる。工期設定システムについても、利用者の意見を聞きながらより良いものにしていくなど、対策は進めている」


髙野 「そのような取り組みは、本当にありがたいと思っている。ただ、地方自治体、特に小規模な市町村では取り組みが非常に遅れている。国がリーダーシップを執ってほしい。また経営者の観点からは、10年・20年後の中長期的な事業量が見通せなければ、安心して取り組みが進められないのも本音だ」


東川 「中長期的な需要を示し将来を見通せるようにすることは、市町村が技術職員を確保することにも繋がると思う。国としてしっかり対応していきたい」



■使命や価値をしっかりアピール



マツ これらの環境が整って初めて人材確保・育成に取り組める


田中 「若者が職業を選択する際に重視しているのは〝社会への貢献〟〝チーム力(共創)〟〝クリエイティブ(創造)〟の三つ。建設業はすべて満たしている。自分たちにとって当たり前のことも、外からは輝いて見えることがある。自らの資源を見直し、どう磨きをかけるかが重要だ」


東川 「建設業はものをつくること自体が目的ではなく、つくったものが、どんな役割を果たすかが大事。下水など、見えなくても重要な役割を果たしている施設は多い。建設業の使命や価値をしっかりアピールしなければならない」



■市民の『ありがとう』で誇りとやりがい



マツ 全国建設青年会議のアンケート(※)では、建設業に対する学生のイメージで最も多いのが〝やりがい〟だが、若手技術者では〝やりがい〟が3番目になり、学生が8番目に挙げた〝休みが少ない〟の下になる。学生の回答では下位だった〝残業が多い〟〝収入が少ない〟も上位になり、入職者が定着しにくい要因が見て取れる

※調査対象=工業系高校・高専・大学学生5084人、入職5年以内の若手建設技術者1213人。調査時期2019年9~10月


デミー 「工業高校や大学の工学部でも、教える側は民間で働いた経験がないので、実情を伝えられていないケースが多い。ギャップを埋める教育が必要だ」


田中 「どんな職業にもギャップはある。例えばi―Constructionなど、ギャップを埋めるために必要な施策を業界側がはっきり示し、若手職員にも当事者意識を持ってギャップの解消に向けた取り組みを求めたらどうか」


髙野 「災害の復旧・復興工事などで、地域の方から『ありがとう』と声を掛けられると、この仕事を続けてきて良かったとつくづく思う。若手には、この経験を積み重ねてほしい」


デミー 「市民からの『ありがとう』で、やりがいや誇りを感じることができる。だが建設業は、まだ市民との距離を感じる。市民の声を直接受け取り難い環境にある」


田中 「工事現場は仮囲いの中にあるなど近付けず、市民に情報が伝わりにくい。工事が完了して、住民が『ありがとう』と言いたい時には、施工者は別の現場に移っている」



■官民一体で『見える化』を面展開



マツ では建設業の魅力ややりがいを伝えるにはどうしたら良いか


東川 「国交省が立ち上げた『建設現場で働く人々の誇り・魅力・やりがい検討委員会』(委員長は田中氏)では、建設業のリブランディング(イメージの再構築)に向けた検討を進めている。現時点では、働き方の見直しのほか、災害時に着用するビブスの統一化や工事銘板へのQRコードの追加、女性に配慮した現場環境の整備などが検討されている」


田中 「環境が改善されれば、女性の入職・定着は進む。男性が考えた女性のための環境ではなく、女性自ら考えた環境整備が重要。建設業で働く女性のキャリア・ロールモデルの発信も有効だ」


マツ 「銘板を見る人は意外と多い。地域の施設の銘板に地元の建設業名があれば、地域の人は、その施設や企業をより身近に感じられる。QRコードで工事に携わった人まで見ることができれば、技術者や技能者の誇りややりがいにも繋がる」


デミー 「地域や家族の関心・理解が高まり『ありがとう』や『頑張って』と言われることが増えれば、たとえ現時点で給料が安かったとしても、すぐに辞めようとは思わなくなるはず」


東川 「建設業に関心を持ってもらうためのイベントなどはこれまで〝点〟で進められてきた。今後は、官民一体となった地域ブロック単位の〝面〟で推進。〝建設業の見える化〟により、地域の興味・関心を高めていく」


田中 「当事者だけで完結させないで、いろいろな人を巻き込むことが大事。広報だけでなく、まちづくりについても、インフラの老朽化などの課題を市民と共有し、地域と行政・建設業界が一緒になって課題解決に取り組むことで、関心・理解は深まる。業界も、つくり手自らが発信する努力をし、地域の人から話し掛けられるような〝地域で輝く人づくり〟を長い目で進めてほしい」


髙野 「国を中心に先駆的に検討されている取り組みに乗り遅れないよう、各会員が自助努力をして、子どもたちに建設業の未来を繋ぎたい。今日をスタートにして、関係者間で連携を深めながら一歩一歩前へ進んでいく」


デミーとマツ 「各地域に〝デミマツ〟をつくるなど、我々も応援していきたい」



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