国土交通省事務次官・栗田卓也氏に聞く2021年の展望 /リスクに強い社会構造へ
2021年01月01日(金)
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新型コロナウイルス感染症の拡大に世界が揺れた1年が終わり、新しい年、2021年が幕を開けた。感染拡大に収束の気配が見えない中でも、自然災害への備えをおろそかにすることはできない。建設業には、感染防止に向けた取り組みと、『地域の守り手』としての事業の継続が求められている。その両立のためには、この2021年をDX(デジタル・トランスフォーメーション)への対応や長時間労働の是正など、新しい働き方を定着させる1年とする必要があるだろう。「建設産業という産業自体が、日本社会にとってのインフラだ」と、その重要性を強調する国土交通省の栗田卓也事務次官に、今年1年の展望を聞いた。
―新型コロナウイルスの感染拡大に揺れた20年は、国土交通省にとってどのような1年だったのでしょうか。
「人口減少や地球温暖化、自然災害の激甚化・頻発化といった環境変化に対応する経過点となった1年だった。特に象徴的だったのは新型コロナウイルスへの対応だ。感染が広がり始めた20年2月から、ダイヤモンドプリンセス号の水際対策、公共交通の感染拡大防止策などに取り組んだ。感染拡大防止と社会経済活動の両立に向けた『GoToトラベル』などの経済対策も進めた」
「20年7月豪雨の被災地では、応急対応や復旧作業を急ぐ一方、赤羽一嘉国交相の陣頭指揮の下、『総力戦で挑む防災・減災プロジェクト』をまとめた。このプロジェクトを基軸とし『流域治水』に代表される防災・減災対策を進めている」
―21年も新型コロナウイルスや自然災害への対応が続きます。
「ウィズコロナ時代の社会経済構造や生活様式の変化を踏まえ、インフラや物流分野のDX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進など、生産性向上やリスクに強い社会経済構造を構築していきたい。テレワークの浸透により、働き方や住まい方も変わるだろう。テレワークが企業活動の一つとして定着するかを見極め、ニューノーマルに対応したまちづくり、二地域居住、ワーケーションなども推進する」
―昨年10月には、建設工事の受発注者に適正な工期設定を求める改正建設業法が施行されました。長時間労働が常態化する建設業の働き方改革をどのように支援していきますか。
「建設業は他産業と比べても高齢化が進んでおり、近い将来、高齢者の大量退職による担い手の減少が見込まれるため、将来の建設業を支える若年入職者の確保が喫緊の課題だ。2019年6月には建設業の働き方改革、生産性向上、災害時の緊急対応の充実・強化を柱として、改正建設業法を含む『新・担い手3法』が成立した。現在、新・担い手3法に基づき、工期の適正化、施工時期の平準化、技術者制度の規制合理化などを進めている」
「特に、長時間労働を是正するためには、建設工事の請負契約を結ぶ際に、適正な工期を設定する必要がある。このため、改正建設業法では『著しく短い工期』での契約を禁止する規定を設け、20年7月には中央建設業審議会が『工期に関する基準』を作成、勧告した」
■「適正工期」が質の高い建設サービス生む
―適正な工期への意識をどのように業界に浸透させていきますか。
「改正建設業法の施行に合わせ、発注者や建設業者が順守すべき取引ルールを定めた『建設業法令遵守ガイドライン』を改訂した。ガイドラインでは、改正法を適切に運用するため、著しく短い工期の判断に際し、単に定量的な期間に着目するのではなく、『工期短縮が長時間労働などの不適正な状態を生じさせているか』に着目している」
「工期の適正化は、建設業の担い手が安心して活躍でき、建設産業が魅力ある産業になるために不可欠。発注者としても、事業のパートナーである建設業が持続可能な産業となることで質の高い建設サービスを享受でき、受発注者相互に有益な関係を構築できる重要な取り組み。そうした意義も含め、しっかりと周知していきたい」
■都市政策 新たな働き方・住まい方に対応
―新型コロナウイルスの影響を踏まえた『新しい生活様式』に対応するため、今後の都市政策をどのように展開していきますか。
「新型コロナウイルスの感染拡大下では、都市の過密という弊害が顕在化し、都市の在り方が改めて問われている。米国のある経済学者は都市を『人類最高の発明』と言っており、都市は集積によって人々の生活にイノベーションや効率性をもたらしてきた。集積と過密を異なるものとして整理し、政策を考えなくてはならない。瞬間的な密は避けつつ、都市の機能集積によってイノベーションを生み出し続ける必要がある」
「国交省では、昨年10月に『デジタル化の急速な進展やニューノーマルに対応した都市政策のあり方検討会』を発足させ、これからの都市政策を検討している。20年度中にまとまる検討会の提言を踏まえ、新たな働き方・住まい方に対応するテレワーク拠点の整備支援、オープンスペースの活用など、コンパクトで歩いて暮らせる、ゆとりとにぎわいのあるまちづくりを推進していきたい」
■激甚災害に『流域治水』で備える
―昨年も、20年7月豪雨などの大規模な自然災害が発生しました。気候変動の影響による災害の激甚化にどのように備えていきますか。
「気候変動の影響で激甚化・頻発化する自然災害に対し、河川管理者が主体となる治水事業を強化することに加え、本川と支川、上流と下流の流域全体を俯瞰(ふかん)し、関係者が共同して水災害対策に取り組む『流域治水』を推進する」 「上流へのダム・遊水池の整備、下流から計画的に行う堤防整備・河道掘削を一層充実させるだけでなく、利水者と連携した既存ダムの活用にも取り組む。河川の氾濫時にも被害を回避する対策として、災害リスクのより低い地域への居住誘導、災害リスクの高い地域における開発抑制といった対策も講じていく」
―省庁再編によって01年に発足した国交省は20年目を迎えました。
「この20年の中で、国交省の外局として観光庁が発足し、政府全体でも観光政策が重要政策の一つに位置付けられた。旧建設省のまちづくりと旧運輸省の公共交通がタイアップした政策も生まれた。これからも国民目線でモノを考えていけば、局間の連携を深めたより良い政策を打ち出すことができるはずだ」